笑ったあとに本当の顔が

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昭和52~53年にかけてサンケイ新聞婦人面に掲載された「お茶の間説法」の文章です。


大口あいて笑ってると、笑ってる本人のお人柄が知れちゃって、逆さまに笑われてしまうこともありうるわけですけど、何ていうんでしょ、フフっとか、ホホとか、ニコッとか、そういった、ほほえみ程度の笑いというのは、大切にしたいですよね。

いつだったかなあ、もう20年以上前だったと思うんですけど、劇作家の内村直也さんの講演を聞いたことがありまして、そのときに、最も魅力ある笑い方というのを披露していらっしゃった。それは、どんなのかといいますと、フと笑って、もう一度、フッと笑う。こういうのがなんとも素晴らしいなんておっしゃっていました。

フ・・・フッ あなたもお試しになってはいかがですか?
そう、お試しといえばもう一つ。写真を撮ってもらう時、あなたはどんな顔なさいます?だいたいは、チーズ!ですよね。ところが、近頃はこのチーズではうまくゆかないことが多いんです。なぜって、ほら、VTRなんてのあるでしょ、ずぅっと撮られっ放しということもあるわけです。そんなときにチーズ!というと、まあ、チーのときはいいけれど、ズッのときは、あんまりいい顔になりませんよね。で、最近は、チーズじゃなくて、ウィスキー!というんですって。これならいいですよね。キーと長々とほほえんでいられますものね。

ところで、うちのお寺の日曜学校には、ことばの教室、雪ん子劇団がありまして、ここでは、ことばの体操とか、顔の体操なんてのをやっているんです。で、いつだったか、子供たちに「さあ、みんな、ニッコリ、いい顔で笑ってみよう!」というとそれこそ、みんな思い思いの笑顔を見せてくれたんです。でも、正直いって、あまりいい笑顔がないんです。口に手を当てたり、はにかんでいるだけだったりで。こんなこといったら、しかられるけど、お母さんのコピーなんですよね。子供の笑顔や表情のほとんどは育てるお母さん、たまにお父さん、そして先生の表情そっくりなんです。

で、みんな笑顔がよくないということは、どういうことなんでしょ。いいにくいけど、お母さん、うちであんまり笑ってないんですよね。「早く起きなさい!」からはじまって「いいかげんに寝なさい!」まで、ニコッとか、フフッとか、ホホなんてことめったにないんですよね。そう、お母さんが笑ってるときというのは、近所の奥さんとのおあいそ笑いとか、お客様相手のお上手笑いとか、テレ笑いとか、そんなときしかないんですよね。

ですから、うちの劇団では表情豊かに-と、大いに顔の体操をとり入れて、目も口も鼻もガバッとあけたり、ギュッと閉じたり、唇をとんんがらせたり、ほおをふくらませたり、なんてのをやるんです。そして、写真を撮るときは、ちょっとまぶしそうな顔をして、声をそろえて、ウィスキー!とやるんです。いやほんとに、びっくりするほど、いい顔になりますよ。是非お試し下さいませ。

そして最後にもう一つ。人間の本当の顔は笑っているときの顔ではなくて、笑い終わった時の顔だということも覚えておいて下さい。その人が一番よくあらわれるのは、フフっ、ホホと笑った、その直後の顔なんですって。これはもう飾りようがないんでしょうねー。

「お茶の間説法」(37話分)
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