あなたの町のお寺では、除夜の鐘は何時から行われていますか?
年末年始の風物詩として親しまれている除夜の鐘ですが、その開始時刻について、寺院ごとの違いに目を向ける機会は多くありません。
アンケートに至った経緯
除夜の鐘は、多くの寺院で12月31日から1月1日にかけて撞かれていますが、その実施の仕方は、年内に撞き終える寺院、年をまたいで行う寺院、年が明けてから行う寺院など、各地でさまざまな事例が見られます。
また近年では、高齢者にとって夜間の外出が難しくなっていることや、子どもたちにも参加しやすいようにという配慮から、除夜の鐘を日中に変更する事例も耳にするようになりました。一方で、住宅街にある寺院では、鐘の音が騒音問題として扱われるという報道に触れる機会もあります。
このように、長年当たり前のように続けられてきた除夜の鐘ですが、改めて「各地では実際に何時から行われているのか」という点について、具体的な状況を知りたいと考えるようになりました。
そこで、SNS(Facebook)のアンケート機能を用い、「除夜の鐘は何時についていますか?」という問いを投げかけ、全国の寺院から現況をお寄せいただきました。アンケートは、2025年12月25日から27日までに実施したものです。わずか三日の集計ではありますが、複数の方にシェアのご協力をいただき、全国から216件の回答が寄せられました。心より感謝申し上げます。
なお、本アンケートはSNSを通じた自主的な回答をもとにしたため、回答寺院には多少の宗派構成の偏りがありますが、十分な参加人数が得られたことにより、除夜の鐘の開始時刻が複数の時間帯に分布している様子については、一定の傾向を示す結果になったと考えられます。
本ページでは、その集計結果をもとに、除夜の鐘の開始時間を整理し、可視化しています。
アンケート結果

※23時台以外は1時間区切りにまとめています。
集計結果からは、除夜の鐘の開始時刻が23時台に明確に集中しており、特に23:45が突出しています。
- 23:45:107件(50%)
- 23:30:42件(20%)
- 23:15:4件(2%)
- 23:00:15件(7%)
これらを合計すると、23時台開始が全体の約8割を占めています。開始時刻は分単位ではばらつきがあるものの、いずれも年越しの瞬間を含む時間帯として選択されている点に共通性が見られます。
実際に確認できた事例では、23時台に開始した寺院の多くが新年を挟む形で鐘を撞いており、さらに22時開始であっても、年末年始をまたいで行われている例が確認されました。このことから、開始時刻そのものよりも、年越しの時間を含めて実施することが重視されていると捉えるほうが自然です。
なお、鐘を撞いている時間については、1時間以内で終了する寺院もあれば、2時間ほどかけている寺院も多く、さらに、夕方から深夜にかけて最長7時間程度に及ぶ事例も見られました。浄土真宗では108回という回数に必ずしもこだわらないため、参拝者数に応じて撞く回数が変動する場合もあります。また、1000人規模の参拝者に対応する有名寺院においても、108回に限定せずに行われている例が見られます。
一方、23時台以外の時間帯としては、
- 0:00:20件
- 20〜22時台:6件
- 12〜18時台:20件
といった実施例が確認されました。
これらをあわせて見ると、除夜の鐘の開始時刻は23時台を中心としながら、年越しを含む実施、年明けに行う実施、日中に行う実施という複数の形態に分かれて分布している構造を持っていることが分かります。
除夜の鐘の開始時間を三つのゾーンで見る
開始時刻は寺院ごとにさまざまですが、「年の切り替わりを含むかどうか」を基準に整理すると、除夜の鐘の実施時間は、次の三つのゾーンに大別できます。
① 年明け(0:00~)
② 年越し(22:00~23:45)
③ 年内(14:00~21:00)

このように整理すると、約8割の寺院が、年越しを挟む形で実施することに重きを置いていることが明確に浮かび上がります。その背景には、除夜の鐘の前後に法要や勤行を組み合わせ、年末から新年にかけて一連の行事として営んでいる寺院が多いという事情もあります。
一方、「①年明け」は、新年の行事として位置づけられていると捉えることができ、「③年内」は、それらとは異なる意図や事情のもとで設定されている、別の実施形態として理解できます。
有名寺院の開始時刻(参考事例)
アンケート結果とあわせて、全国的によく知られている寺院の除夜の鐘の開始時刻を、各寺院の公開情報をもとに代表例としてまとめました。
- 21:00 築地本願寺(東京)、瑞巌寺(宮城)
- 22:40 知恩院(京都)
- 23:00 永平寺(福井)、円覚寺(鎌倉)
- 23:30 四天王寺(大阪)、清水寺(京都)
- 23:45 延暦寺(滋賀)、立石寺(山形)、方広寺(静岡)
- 00:00 東大寺(奈良)、増上寺(東京)、池上本門寺(東京)
これらの事例を見ても、開始時刻は特定の一時刻に集中しておらず、21時から0時まで、幅をもって分布していることが分かります。このことから、除夜の鐘の開始時刻は、寺院の規模や知名度にかかわらず、それぞれの運営方針や行事構成に応じて設定されているという実態がうかがえます。
除夜の鐘が全国に広まった背景
除夜の鐘が全国的に知られるようになった要因の一つとして、メディアを通じた紹介が挙げられます。
1927年(昭和2年)、現在の「ゆく年くる年」の前身にあたるラジオ番組「除夜の鐘」が放送され、スタジオ内で0:00よりおりんを108回鳴らす形でその様子が伝えられました。その後、1929年に一寺院からの実況中継、1932年からは各地の寺院を結ぶリレー中継へと発展し、除夜の鐘は年末年始の風景として全国に共有されていきました。ただし、これはあくまで近代におけるひとつの要因であり、それ以前から除夜の鐘は存在していました。
(参考記事:ウィキペディア「ゆく年くる年」)
また、戦時中の1943(昭和18)年に制定された「金属類回収令」により、多くの寺院が梵鐘を供出することとなり、除夜の鐘が行えない期間が生まれました。その後、戦後の復興期には、復興の象徴として梵鐘の新調が各地で進められ、これに伴って除夜の鐘も再び行われるようになります。現在見られる除夜の鐘の実施状況や開始時刻の設定も、こうした歴史的な経緯の延長線上にあるものと考えられます。
さらに1962(昭和37)年以降、NHK「紅白歌合戦」の終了後、「23:45」に「ゆく年くる年」が始まる現在の年末年始放送編成が定着しました。当時の「紅白歌合戦」は視聴率が80%を超え、その後も1999年まで50%以上の高い視聴率を維持していたとされています。寺院の歴史から見ると比較的近年の出来事ではありますが、アンケート結果で「23:45」開始が過半数を占めている背景には、こうした放送時間が社会に共有されてきた影響も、一因として考えられます。
まとめ
今回のアンケート結果と有名寺院の事例をあわせて整理すると、除夜の鐘には、開始時間に関する統一的な決まりが存在しないという点を、改めて確認することができました。
実際には、過半数を占める「23:45」を含め、年越しの時間帯を含む実施例が全体の約8割を占めています。一方で、これとは別の軸として、年明けに行う例や、日中に行う例も一定数存在しており、開始時刻は、各寺院の運営方針や地域の事情、参拝者の状況などに応じて選ばれていることがうかがえます。
注目されるのは、全体の約1割を占める、日中から夕方にかけて行う寺院の存在です。これらの多くは、近年になって開始時間を変更したケースであり、日中と夜の二部制を採用する寺院も見られます。そこからは、それぞれの環境や事情に応じて、柔軟に対応しようとする動きがうかがえます。この流れは、今後さらに広がっていく可能性もあるでしょう。
最後に、寺院にとっては除夜の鐘の前後に行われる法要を大切に営んでいます。機会がありましたら、そうした時間にも目を向けていただければ幸いです。
※アンケート結果は、SNS上での自主回答をもとにした集計です。
※有名寺院の開始時刻は、各寺院の公開情報を参考に代表例として掲載しています。
除夜の鐘のライブ配信
21:00 築地本願寺(東京) 玄照寺(滋賀)
21:30 貞昌院(神奈川)
22:40 知恩院(京都)
23:00 郷福寺(長野)
23:45 長楽寺(広島)