ゴメンだネ・・・祈とうにおはらい

昭和52~53年にかけてサンケイ新聞婦人面に掲載された「お茶の間説法」の文章です。


「ごめん下さい!」
朝の6時に玄関に元気のいい青年が立っている。パリッと背広にアタッシュケース。(セールスマンかな?うちの門徒さんにこんなカッコいいのいなしなあ・・・)
―どなた?
「ハイ、私、今、東京から汽車で着いたばかりの、こういう者でありまして・・・」
名刺を見れば、東京証券取引所とある。(ははあ、株屋さんで、何か売りつけようというんだな)と、逃げ腰になりかかったら、いち早くそれを察知して、
「いえ、商売の話じゃないんです。先日、ちょっと調べてみましたら、ウチの3代前の本家がこの寺の門徒だということがわかりまして、一度、親代々の法事でもしていただかねばと思いまして、突然伺ったようなわけなんです。で、私、すぐまた汽車で東京へ引き返さなくてはなりませんので、とりあえず、お経の一巻でもと・・・」
―それはまたずいぶんとお急ぎなんですね。じゃまあ、お上がりなさいませ。と、部屋へ通してお茶をすすめて、お話をうかがってみると、これがビックリ。
「ええ、私、仕事の方はうまくいっているんですけど、親戚の者が最近、相ついで3人も交通事故起こしまして、どうもすっきりしませんので、ちょっとある人にみてもらいましたら、なんか迷った霊がおるとかで、お寺で法事をした方がいいと聞きまして、さあ、それからあちこち調べて、やっと、ここのお寺が檀家寺だということがわかりましたんで飛んで来たわけなんです。どうぞ、よろしくお願いいたします」
―あのォ、申しわけないけど、ウチの寺は、そんな法事はしないんです。
「エエッ?!法事をしない寺なんですか」
―いえ、法事はしますが、ここは浄土真宗のお寺で、深く因果の道理をわきまえて、現世祈とうやまじないを行わず、占いなどの迷信にたよらないことをモットーにしてますから、あなたのいうような法事はしないってことです。
「そんなこといわずにお経一巻・・・」
―浄土真宗では、お経を祈とうやおはらいの道具にはいたしません。
「弱ったなあ、ちょっとやって下さりゃいいんだけどなあ」
このちょいとってところがムカッときたんですが、相手の方は東京から夜汽車でやってきて、もっとムカッときているだろうから、とりあえず心落ち着けて、お経のかわりにお話ししたんです。
―あなた、みてもらったっていうけど、だれにみてもらったの?どんな考えを持った人で、その人はあなたのことを本当によく知っている人なの?
「さあ・・・」
―さあってずいぶんいいかげんだね。だれだかわからん人物に、それこそちょいとおどかされたぐらいで、よく富山の山寺まで来ましたね。親戚に事故がつづいたって、それには原因があるはずです。警察行って聞いてごらんなさい。そしてついでに、ひょっとしたらことわたしももうすぐ事故を起こすでしょうかって聞いてごらん。アホかっていわれますよ。あなた、自分の欲で、なんかこうサッとやってもらったら、いいことくるように思ったんじゃないの?現代の標本みたいなカッコしてるけど、頭は原始人だね。いやご無礼!


「お茶の間説法」(37話分)
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