聞いて、思って、身につける

聞く、というのにも、いろんな聞き方があるもので、お経には、上中下の三つあると説いてあります。
まずは、下。
おい、俊隆!宿題しろよ、と私。
「ウン、わかった!」とむすこ。
で、次の瞬間、むすこはランドセルを放り出し、表へ飛び出している。コラッ!ちっとも聞いていないじゃないか。こういうのは、ただただ、耳で音声を受けとめた、というだけだから、下の聞といいます。

次の中。これは、聞いて、思う。つまり、話を聞いて、心に当てて、うなずくってこと。
「うん、うん」
とお講参りのおばあちゃん。ちょっと、まだ早い。ほれ、前にも、お講の法座で話したことありましたよね。うちのむすこと、母親の対話。

そう、5,6年前のこと、うちの家族7人が、朝ごはんを食べていた。そしたら、長男が、
「ねえ、うちで、一番最初に生まれたのはだれ?」
と聞く。当ててごらん、といったら、エート、とみんあの顔を見まわしながら、
「ウン、一番はおじいちゃま、で、二番はおばあちゃま、三番はお父ちゃん、四番はお母ちゃん、五番はお姉ちゃん、そいで、六番目がぼくで、七番がのりくん」
とやりだして、何度も何度もくり返す。それからしばらくして、こんどは、不思議そうにもう一度、みんなの顔を見ながら、ポツンといったの。
「みーんな、生まれたねー」
グッと胸がつまって、どういったらいいか戸惑っていたら、女房がフッと
「そうねー。あえて、よかったわね」
といったの。なんかこう、ブワーッとうれしくなったわけ。」で、やっぱり、私たち、本当にめったにないご縁で、夫婦になったり、親子になったり、嫁と姑になったんだから、女房のまねしてさ、一ぺん、みんな、手をにぎり合って、「あえてよかったねー」っていい合っておこうよ-とまあ、そんな話を、いろんなところでしたわけだ。婦人会でも、老人会でも、みんな「うんうん」って、うなずいて下さってね、私もうれしいなあって思ったことがある。

まあ、こういうのが、中も聞。つまり、聞いて、心に当たるものがあって、うなずいて下さったわけでしょ。でも、これは、中も聞であって、上じゃない。というのは、うなずいて下さったから、よし、それでは今日これから帰ったら、まず、あなたと嫁さんで手をにぎり合って「あえてよかったわね」とやって下さいませ、とたのんだら、
「そら、若ハン、ダメダメ!」
だと。

そう、上の聞は、聞いて、思って、身につけるってことなんです。ウン、それで、この話にはおまけがついていて、明日の土曜日の八木治郎ショーでアシスタントをやめなさる浜美枝さん。あの方、うちの婦人会のメンバーでもあるんだけど、この話をいつだったか聞いて下さったようで、今日発売のあの人の本の題名が、ズバリ「あえてよかった」なんですと。先日、電話をかけてきて、「番組はやめますけど、いろんな人にあえてよかったって思うし、それに、人生すべて出会いですものね。その出会いを、やっぱり、あえてよかったとよろこばなくっちゃね。あのことば、いただきます」ですと。話し手より身についているみたい。


昭和52~53年にかけてサンケイ新聞婦人面に掲載された「お茶の間説法」の文章です。

「お茶の間説法」(37話分)
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