別れたとたんに愛着病

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昭和52~53年にかけてサンケイ新聞婦人面に掲載された「お茶の間説法」の文章です。


仏様のおっしゃる自覚症状のない心の病気というのは、一に欲と貪り、二に何事もよろこべないという病気、そして第三は愛着という病気です。

目の前にいる時は、ちっともよろこべないのに、離れたり、別れたりすると、とたんにこの愛着病が発生します。ですから、愛しく思い、大切にしなくてはならないものには、せいぜい今のうちに、出来る限りの愛情をそそいでおくこと。そしたら、少しはこの病気、軽くなるんじゃないかと思うんですが、なかなかねー。

先日もある婦人会で、なくなられた俳優、木村功さんの奥さんがいつも「功、大好き!」といってたけど、私達もマネして、今をよろこんでおこうよ、といったら、婦人会の皆さん「ホントねー」なんておっしゃってる。そこでもう一度念を押して-いいですか、大好き!とか、逢えてよかったね、とか愛情の表現はなんでもいい、とにかくご主人と、子供と、そして、おじいちゃん、おばあちゃんと、今日からみんなで手を握り合ってみましょうよ。

そしたら、また、ウンウンとうなずいていらっしゃる。
わかった?奥さん、あなたのことですよ。あなたがこれからウチへ帰って、みんなと手を握り合うんですよ。出来ますね。ご主人と-といったら、アハハハと笑われる。では子供とは?と聞いたら、ハイハイとうなずいた。じゃあお姑さんとは?と聞いたら、とたんに、ワァーッとどよめいて「そりゃどうにもなりません!」ていうんです。

さっきまで、ウンウン、ホントねーなんていっていたけれど、まるで他人事として聞いていたわけで、いざ自分の事となると、都合の良いとこはOKだけど、都合の悪いところは絶対NO!なんです。ちょっとシャクでした。そこで、今度は老人会でも聞いてみたんです。

当たり前のことだけど、みなさんは朝起きたとき、ウチのみんなとあいさつしてますか?お早う!と声をかけ合ってますか?すると、どうでしょう。百人ほどの集まりでほとんどの方が下を向いちゃうんです。あら、おばあちゃん、ウチで孫やら、嫁さんやらと、お早うっていってないの?すると、おばあちゃんたち、さびしそうに笑って
「なーん(いいえ)、朝のあいさつどころか、若いもんは声もかけてくれませんちゃ」
とおっしゃった。これがどうやら私達の日常のようであります。いや他人事じゃなく、この私にしたって、そりゃあいさつぐらいはしているけど、毎日、逢えてよかったとよろこんでいるかといえば、なかなかそうはゆきません。それが本当の私-つまりは心の病気にかかっているわたしなんですよね。

ちょっとしんみりしちゃったんで、気分転換にそのおとしよりに、もう一つ聞いてみたんです。ねえ、おばあちゃん、あなたたち若いもんと仲良くしたいと思いませんか?すると、思う思うとうなずく。じゃあ、なぜ、仲良くできないんですか?いったいだれが悪いんでしょう?そしたら、みなさん、そりゃ若いもんが・・・といいかけたので、じゃあ聞くけど、あなたの若いころ、姑さんと笑って手を握り合ったことあるの?これにはおばあちゃんたちも、ありゃりゃ?!
ともに凡夫のみ、ですな。


「お茶の間説法」(37話分)
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