男の世界は名利の修羅場

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昭和52~53年にかけてサンケイ新聞婦人面に掲載された「お茶の間説法」の文章です。


「競利争名(きょうりそうめい)」-こんな病気があるんですって。読んで字のごとく、利益を競い合い、名誉を争い合うということなんですが、世の中毎日、こればっかりじゃないんですか。

試しに新聞の一面から最終面まで、ざっと目を通してみましょう。
まず1、2面には政治関係のニュースがたっぷり。日本の未来をしっかとにらんでまともに国政の問題をえぐるというような話はあまりたくさんありませんで、鈴角がどうのとか、野党のメンツとか、およそ政治以前の名誉の争いが多い。で、それがまた、読んでいて面白いということは、こっちもお「争名(そうめい)」の病にかかっているわけで、調べてみたら、新聞が1番よく売れるのは争名の極み-選挙の時期だそうですから、さもありなんとうなずけます。

経済面。これはもうズバリ「競利(きょうり)」の世界、利害の戦争、ソンかトクか、勝った負けたかと大企業から小売りまでがカンカンです。オヤ、その競利の経済面の片すみには、棋聖戦・・・あくまでここは勝負の世界なんですな。

勝負といえば、スポーツ面。アマチュアなら名誉、プロなら利益ということで、ここも競争オンリーのページ。地域ニュース、社会面となると、ホッとする話題もあるにはあるけど、やはり毎日、名利の修羅場が主役のよう。

さてさて、それではテレビでもと番組欄をながめれば、ここも熾烈な視聴率競争。チャンネルのひねり具合でこれまた勝った負けたとなるわけで、かなりナマぐらいタイトルが同じ時間帯にしのぎをけずっています。

ほーんとにどこをながめても、競利と争名、我と我、利と利がぶつかり合ってガリガリガリガリと音をたて、我と他、彼と此れがもつれ合ってはガタピシガタピシ・・・。世の鏡である新聞を目で読まずに、耳で読んだら、一面から最終面まで、我他彼此我他彼此 ガタピシガタピシガリガリと聞こえてくるんじゃないかと思われます。

あ、そう、婦人面はどうですか。例えば本日。楽しい園芸、食べ物レポート、お茶の間説法、熱中育児・・・と、じつにソフト、ケンカなしという感じ。競利争名の病気はどこへいったのかしらと不思議なくらいなんですが、それはそれ、わからないことは仏様に聞けばいい。すると、次のような答えが返ってまいります。

つまり、新聞の中で、婦人面以外はほとんどが男の世界。で、男というものはいったい何に興味を示し、何に一生を賭けるかといえば「名利のみ」と、仏様はおっしゃる。要するに、偉くなりたいのが男の願いで、ただこれしかない、とおっしゃるわけです。

そして、この願いを貫くためには、まずこのシャバでは、目の上の偉いのを引きずり下ろさなくてはならない。すると、偉い方は負けまいとがんばる。そこに必ず争いが起きて、修羅場と化する。それを競利争名の病とおっしゃったわけで、どうやら、この病気は婦人病ではなく、男性病のようであります。

でありますからして、世のご婦人方は、なるべくこの病気を悪化させないように気をつけていただきたい。「なーんだパパ、あんまり偉くないのねー」とか「あんだけ働いて、こんだけ?」なんていったら、それこそ新聞ダネにもなりかねませんからね。

さて、心の健康診断はこれぐらいにして、次回からは婦人面はなぜに平穏なのかということも含めて、何が女性の願いかという問題にせまってみることにいたしましょう。


「お茶の間説法」(37話分)
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>>「続・お茶の間説法」 プレイリスト