浄土真宗本願寺派では、2023年1月16日に本願寺のご門主(代表者)より、「新しい領解文(浄土真宗のみ教え)」が発表されました。時代に合った言葉で表現したとされる内容で唱和を推奨する新しい言葉です。
これに対して、①この文章が制作された経緯の不透明さ ②ネーミングの問題 ③内容の問題 ④唱和を推奨することについてなど、本願寺派僧侶を中心にさまざま疑問の声があがり議論が交わされています。
不安定な状態で門徒さんやご縁のある方たちに伝えるつもりはなかったのですが、事態が収まらないまま、2023年3月29日からはじまる慶讃法要に際して新しい領解文の拝読、唱和を遂行することになったため、浄土真宗本願寺派にご縁のある方はどなたも無関係ではなくなりましたので、事の経緯に重点を置いて情報共有します。
<語句説明>
領解文(りょうげもん)
浄土真宗の教えの受け取り方(領解)を端的にあらわした文章です。本願寺8代の蓮如上人は事あるごとに、「ものを申せ」と口に出して気持ちをあらわすことを勧められました。教えをどのように受け取っているかを告白し、それに対して蓮如上人がご助言(改悔批判)したことが元になり、現在も本願寺ではその形式が残っています。
> 従来の「領解文」本文
> 新しい「領解文」本文
ご門主(もんしゅ)
本願寺の代表者。ご門主のお言葉として、法話を「ご親教(しんきょう)」といい、教団として重要な意志表明をあらわすお手紙を「ご消息(しょうそく)」といいます。ご消息は重みが増すので、勧学寮の諮問が必要条件です。
勧学寮(かんがくりょう)
ご門主の諮問機関であり教学的問題に対して答える役割を担う。勧学は学階の最高位を持つ人たちで、尊敬の意を込めて「和上(わじょう)」と呼んでいます。
宗会議員
各教区の選挙によって選出された議員。その中で内閣的な役割を果たす「総局(そうきょく)」が設置され、その代表が「総長」。総理大臣のような感じです。この人たちが集まって行われる議会を「宗会」といい、日本の国会より先に始まった議会制度といわれます。今回の一連のことは、この中の「総局」が指揮をとって進めている事業です。
>> 組織相関図の詳細はこちら
制定の経緯
現代版の領解文と御文章の制作は、2005年にはじまりました。その成果として、2009年に発刊された「拝読 浄土真宗のみ教え」に収録された「浄土真宗の救いのよろこび」が領解文の伝統と精神を受け継いだものとされています。ここでいったんこの企画は終了するわけですが、2014年に即如門主から専如門主へ、総長は石上智康氏、勧学寮頭は徳永一徳氏の体制になり、2015年に現代版の領解文制定が再び事業にあがりました。そして、それまでの「浄土真宗の救いのよろこび」は2019年に人知れず削除されました。
2023年2月号「宗報」での新しい領解文制定の経緯説明には、「浄土真宗の救いのよろこび」に関しては一切触れず、当時の現代版領解文の制作は検討中なままとして記されています。また、この経緯説明では、2005年から長く検討を重ねてきたかのように記されていますが、実際は、2009年でいったん打ち切り、2015年に再び事業に入ったものの、現代版の領解文は2022年の段階でも「制作の議論が行き詰まっている」と当時の総合研究所所長が答えています。つまり、検討自体は断続的にされてきましたが、制作に研鑽を重ねているわけではなく、2022年の段階でも何も決まっていないということでした。
「浄土真宗の救いのよろこび」は、普及も反応も理想通りではなかったのかもしれないけど、しらっと消しちゃったのはとても印象が悪いです。それならば、親鸞聖人もひとつの書に生涯をかけて加筆と修正を繰り返したように、納得できるまで徹底的にブラッシュアップして完成に近づけていってほしかったです。
その後、突如2022年4月1日に「現代版領解文制定方法検討委員会設置規程」が施行されます。名前のとおり、現代版領解文を制作するのではなく、制定方法を検討する会なので、すでに制作自体は視野に入っていないことが伺えます。9月から11月にかけて5回の委員会が開催され、「ご門主様にご制定いただくよりほかはない」という結論を出しました。あたかも初めから決められていたような結論です。
この時、制定方法検討委員会からはこのような意見を残しています。
●従来の領解文との混乱を避けるために新たな名称を検討するべき
●従来の領解文の精神を受け継いで簡潔に表すことは非常に困難ではないか
しかし、その意見は反映されることなく進んでいきます。その後、ご門主からの消息原文を勧学寮が確認するわけですが、提出された言葉は、2021年のご親教「浄土真宗のみ教え」に4行付け足したものでした。検討委員会の意見を取り入れる間もなく、返答を急いだ結果、後に解説文を書くことで理解を図るとした上で同意したとされます。
2023年1月16日、新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)が発布されます。
多くの疑問を残したままの発布となりました。段取り的には、制定方法委員会を設置し、委員会の答申を受けてご門主の言葉をいただき、勧学寮が同意をしたとなっていますが、あまりにも短い突貫工事のような進め方で、いずれも納得できるものではありません。
領解文がそのままでは伝わりにくいから、現代の言葉に置き換えて制作するという試みには賛同します。ただ、今回は出来上がった文章も、その背景や経緯も、そして唱和を推奨(強要)するという手法にも賛同できません。残念です。
●3期に別けて記しました。
・2005~2009年、現代版領解文の始まりと制定に至る第1期
・2015~2021年、再始動から準備期間として第2期
・2022~2023年、制定までの怒涛の期間として第3期
●色分けについて
・赤色・・・現代版の領解文として制定された「浄土真宗の救いのよろこび」に関して。
・青色・・・新領解文の中にある「愚身(み)」という言葉について、その特徴的な読み方が新領解文が制定される前に見られる箇所を記しました。石上智康総長の言葉が色濃く反映されていることを示しています。これに関して宗会において総局は「ご門主さまと宗派総長の考えが似通うことは当然」と答弁しています。
●追加情報
2018年に真宗教団連合(当時の理事長は石上氏)が行った実態把握調査に、真宗10派の企画ながらオリジナル設問として「浄土真宗の救いのよろこび」が調査され、7ページにわたって取り上げられています。
>> 実態把握調査(真宗教団連合)
その翌年に「浄土真宗の救いのよろこび」が削除されました。削除の理由のひとつにこの実態把握調査があったと確認していますので追記しました。
新しい領解文に先だって、2018年のご親教「私たちのちかい」でも唱和が推奨されました。本願寺派関連の施設では朝礼などで唱和されるようになり、全国各地にある浄土真宗本願寺派の系列学校(龍谷大学、武蔵野大学、相愛大学など)でも唱和されています。関連施設にとっては推奨といってもほぼ強制です。ご門主の法話の内容をこのように勧めていくこと自体、問題があると思います。
> 私たちのちかいに寄せて
請願書について
2023年2月下旬から3月上旬までに行われた本願寺派の議会「宗会」において、「唱和推進について慎重性を求める」請願書を提出しました。請願書の提出は、とてもハードルが高く、本願寺の施設等で働く宗務員をはじめ、各地域の組長や副組長などにも請願を出す資格がありません。それらに該当しない者が請願書を出す権利があり、その上で、紹介議員10名以上の署名が必要でした。請願書を提出するにあたってはチームで動いていたため、唱和に反対している議員の協力を得られましたが、個人で物申したいと思っていても届かないルールでした。
また、紹介議員を集めるにあたり、初めて会派という存在を知りました。本願寺派の議員は現在4つの会派に別れており、今回賛同してくださった会派は1つだけです。それ以外の会派の方は、個人の想いとしては賛同してくれても、署名の段階になると参加出来ないという人が何人もあらわれました。驚いたのは、ひとりの方は会派を退会して署名してくださったのです。また、採決の場で退席することによって意思を表明する方もおられました。それほどに会派のしばりが強く、総局側にノーを言えない体制になっていることに落胆しました。
そして、最後は宗会議長に請願書を受理されるかどうかという難関です。そもそも、ご門主に批判的な内容は受理されず、それ以外でもいろんな理由をつけて取り下げようとする対応に思えました。今回は、とにかく受理されることを第一にした結果、「唱和推進について慎重性を求める」というマイルドな内容になった次第です。
それだけの関門をくぐり抜けて提出した請願書も、当初チームメンバーに聞かされていた通り、賛同者は20%ほどの惨敗で否決になりました。この結果は、総局に圧倒的な政治力があることや、間近に迫った慶讃法要に向けて事業案はすでに進んでいることなどがあげられますが、特に象徴的だったのは宗会において公文名眞議員の発言(中外日報2023.3.8号掲載)でした。
唱和・普及を懸念する内容の請願書が採択されれば、結果的に宗務の基本方針が否定されることになり混乱を招きかねない。
新しい領解文の問題を議論する以前に、大人の事情が立ちふさがっていました。おそらく請願書に反対した議員の多くは同様の考えなのではないかと思われます。はたして、これで事態はまるく収まるのでしょうか。信仰に関わる問題を置き去りにしたことは、何よりも大きな遺恨を残したと思います。
それ以降、全国各地の僧侶をはじめ、勧学の方からも異議の声が高まっています。Facebookグループ「新しい領解文を考える会」の参加者も、宗会前は300人ほどでしたが、宗会後に急増して現在(2023年3月)800人を超え、不安、批判、落胆の声で溢れています。このような状態のまま、3月29日からはじまる親鸞聖人のご誕生850年、浄土真宗が開かれて800年の慶讃法要が行われることに、とても不安を感じています。
「納得出来ないなら読まきゃいいだけ。静かにしておけばそのうち忘れられる」という意見もあります。しかし、ご覧のように今回の推し進め方はこれまでのものとは違い、「2023年度宗務の基本方針」の支柱に定め、2026年までに全寺院100%唱和を掲げるという驚愕の目標を立てていますので、慶讃法要や関連施設での行事をはじめ、関係者にとっては避けがたい状況です。必然的に門信徒の浄財もすでに流れています。
理解を深めるためのパンフレット
続報
2023年3月26日 浄土真宗本願寺派勧学・司教有志の会(18名)より声明発表
>> 勧学・司教有志の会Facebookページ
※「勧学(かんがく)」とは本願寺派最高位の学者をといい、そのひとつ前の学位を「司教(しきょう)」といいます。いわば本願寺の頭脳であり支柱です。
「宗意安心の上で重大な誤解を生ずる危惧を抱かざるをえない」
「宗祖親鸞聖人のご法義に照らして、速やかに取り下げるべきである」
アンケート集計結果
関連動画
深く知る
<関連リンク>
・新しい領解文を考えるページ(Facebook)
・新しい領解文へのTwitterの反応
・私たちのちかいに寄せて(ZengyouNet内)
・超訳領解文(ZengyouNet内)