心のファウンデーション

昭和52~53年にかけてサンケイ新聞婦人面に掲載された「お茶の間説法」の文章です。末尾には、著者本人による録音音声があります。


鏡の前で、ちょっとお化粧でも…と思っていらっしゃるあなたに、今日はとっておきの美容法をお教えいたしましょう。たとえそれが、ヤボな坊さんのいったことであろうとも、”より美しく”というのは全女性の願ってやまない大いなる欲望なのだから、知らなきゃソン。聞いておいたがトクというものであります。
 
エレガンスの辞典―というのがありましてその著者、G・Aダリオ―女史は、身だしなみの心得として次のようにおっしゃてる。
1、毛と爪の手入れが申し分ないこと
2、髪の毛が清楚にととのえられていること
3、お化粧が清楚で、化粧しているとは見えないこと
4、靴は清潔で、みがいてあり、状態のよいこと
5、衣装は清潔で、しみがついていないこと
6、におい押えのコロンかオード・トワレットを毎日怠らずにふりかけること
 
女史のチェックリストはまだ続きますが、このへんでやめにして、最後にご婦人方の化粧について、もうひとこと。
「明るい日のさすところで、鏡に顔をうつしてみて、化粧の濃すぎそうに見えるところは容赦なくぬぐいとることです」。
じつは、わたしが気に入ったのは、この「容赦なくぬぐいとること」ということばなのです。
 
さあ、それでは、いよいよ本題にはいりますが、わたしがみなさんにお勧めする美容法には、二つあります。その一つは、まず「女はウソのかたまりだ」ということを知ることであります。だってそうでしょう。頭のテッペンから足のツマ先まで、ありのままのあなたというものはほとんどない。髪は染めたり、曲げたり、顔は塗ったり引いたり、つけたり…あとはあまり申しませんが、事実そうでしょう。それでいて、口をひらけば、「あーら、奥さま、いつまでもお若いこと!」お若いといったって、年は年なりにちゃんととっていますよ。ただ、そう見えないように、ちょっときれなウソで飾っているだけなんだ。
 
「美容の歴史」というジャック・パンセが書いた本のはじめには、こうあります。
<マキャージュ>(化粧)という言葉は、今ではあたりまえになっているが、これは<働く>とか、<カードでインチキする>を意味する隠語からきたものである。
 
インチキなんだな、やっぱり。いやこれは女ばかりじゃない、男だって、坊さんだって、結局はうわべはウソのかたまりで塗りつぶして、ニッコリ笑っているものなんですよね。だから、まず第一の美容法は、ウソのかたまりを、容赦なくぬぐいとること、ありのままのわたしを見つめ直して、ゼロからスタートし直すこと――これではないかと思うんです。
 
さて、次は美容法その二であります。それは、心のファウンデーションです。どんなにおもてをきれいに飾ったところで、裏の心が真っ黒では、どうにもなりません。おしゃれをして、町を歩いている人をごらんなさい。うちでケンカでもしてきたばかりなのか、目の玉三角にして、親のカタキでもとりにいくかのごとき人の多いこと!
 
お経には「忍辱得端正(にんにくとくたんじょう)」とあります。忍辱とは耐え忍ぶということ。平たくいえば、ハラを立てないことであります。で、ハラを立てなかったらどうなるか。端正を得、つまりスマートになるということでしょう。“ハラを立てなかったら、スマートになる”。これこそ、最高の美容法だというわけです。
 
1日に何十回とハラを立てているわたしたちではありますが、せめてまねごとでもいい、ほがらかに、ニッコリ笑ってハラを立てなかったら…それこそ、あなたは、町一番のスマートな女性になること間違いなしだ。

雪山隆弘
昭和15年生まれ。大阪・高槻市の利井常見寺の次男として生まれ、幼い時から演劇に熱中。昭和38年早稲田大学文学部演劇専修を卒業後、転じてサンケイ新聞の記者、夕刊フジの創刊メンバーに加わりジャーナリスト生活10年。されに転じて、昭和48年に僧侶(浄土真宗本願寺派)の資格を取得し翌年行信教校に学び、続いて伝道院。同年より本願寺布教使として教化活動に専念する。善巧寺では、児童劇団「雪ん子劇団」をはじめ永六輔氏を招いての「野休み落語会」など文化活動を積極的に行う。平成2年門徒会館・鐘楼建設、同年往生。

<-目次-「お茶の間説法」>
お目覚め説法
いい天気ってどんな空?
カガミよかがみよ鏡サン
心のファウンデーション
決めた!はヤメタのはじまり
だいどこ説法
スプーンはおいしさを知らない
ひとりいきいき
いただきます、してますか?
おかげさま?おカネさま?
るす番説法
あなたのダンナは本当の旦那か?
ベルの音いろいろ
長屋とマンション
ひとりよりもふたり
いどばた説法
浜美枝さん
六道はいずこに
この世はあなたのままになるか
天上界は二分半
ようこそ、ようこそ
居直るか、痛みを感じるか
千々に乱れてグチばかり
生きがいと死にがい
名CMその後
ストーブで心は暖まらない
ハウツー説法
お布施は出演料じゃない
焼香は何のために
仏だんの意義
ありがとう、さようなら
お茶の間説法
焼きイモの味
女のよりどころ
男は富貴
煩悩はいくつある
チャンネル説法