女のよりどころ

昭和52~53年にかけてサンケイ新聞婦人面に掲載された「お茶の間説法」の文章です。末尾には、著者本人による録音音声があります。


茶飲み話というのは、あまりムズカシクないのがいい。両方が適当にいいたいことをいえるような話題がいい。となると、人のウワサかな、ヤッパリ。自分のことだと真剣になっちゃうものね。
近頃、この茶の間にくる男連中、みんなそれなんですよ。
「なんたって、出足が早かったのはあいつだね。去年の夏ごろから、ちゃあんと手を打っていて、後援会組織もすでに完全なもんだ」「しかし、あの男より、もう1人の男の方がタマはいいと思うんだがね」「だめ、だめ、あの男は、シリが重いよ。ありゃ昔からなんだ。それでいつもドジ踏んでる。バカなんだよ」
なんてやってる。そう。もうすぐ選挙なんですよ。だから候補者のウワサばかり。こんなやりとりを聞いていて、いつもうちの家内が首かしげるんです。
「男の人って、フシギネー。なんで選挙なんかに夢中になるのかしら」
そこで、当方、調べてみたんです。男はどうして選挙に夢中になるのか、ということと、それを女はどうして不思議に思うのかということを。

わかりましたねー。じつによくわかった。お釈迦様はえらいよ、やっぱり。ちゃあんとお経に説いていらっしゃるんだ。増一阿含経というお経なんですがね。その中に、まず、女のよりどころ、女が力を入れるものには、5つあるといってらっしゃる。いいですか。奥さん、あなたが毎日、何に力を入れて生きているのか、ということを、お釈迦様は「5つある」とおっしゃってるんです。当たっているか、どうか、よーく聞いて下さいよ。

女が力を入れているもの―その第一は「色香」だとお釈迦様おっしゃってる。ホントだね。間違いないね。朝目がさめてから、夜寝るまで、これに使う神経とお金、ずいぶんなものですよね。これを抜きにしたら家の2,3軒は建つんじゃないかって思いますよ、男としては。

さて第二は何か。それは「家庭」である、とおっしゃる。そうだね。女が家庭に力を入れなかったら、それこそ家の2,3軒つぶれちゃいますよ。おかげさま、ありがとう、と世の亭主は感謝しなくったいけない。家庭に主婦あればこそ、わが家は成り立っているんですから。

第三は、これもごもっとも。「こども」であります。母あればこそ、子は育つのであります。子供というのは、いくつになっても、母のふところに飛び込みたいものなんです。母親が迎えてくれているからこそ、家に帰ってこれるのです。これに力を入れない母親がいるとしたら、それは女じゃないといってもいいんじゃないですか。

次に四番目―それは「生活」であります。これも女の力の入れどころ。台所は女の城だ。奥さんいなけりゃクツ下もはけない亭主もいます。ヤリクリ上手も奥さんのウデ一つにかかっているんです。よろこばなくちゃいけませんああ、父ちゃんは。

最後の力は「自らを守る力」これも女の力だとお釈迦様はおっしゃってる。そういえば、奥さんをなくされたご主人―これはみじめですよね。どうにもならない。それにひきかえ、ご主人をなくされた奥さん―これは強い。第一の色香は抜きにしても、家庭と子供と生活をリッパに守り抜いていらっしゃる。こんな話をしていたら、こないだ30年前にご主人をなくされたおばさんが「その通りよ。女の一念、岩をも通す。男の一念、トーフも通さん!」とおっしゃった。まいったね。負けましたよ。あら?選挙の話でしたよね。いや、ですから、女性にはこれほどたくさんのよりどころ、力を入れなきゃならないことがあるから、選挙だなんだと、いってるヒマはない。「男って不思議ねー」ということになるのであります。さて、それでは、選挙にうつつを抜かす男のよりどころというのはいったい何でありましょうや。聞いてソンはない。次回をお楽しみに。


雪山隆弘
昭和15年生まれ。大阪・高槻市の利井常見寺の次男として生まれ、幼い時から演劇に熱中。昭和38年早稲田大学文学部演劇専修を卒業後、転じてサンケイ新聞の記者、夕刊フジの創刊メンバーに加わりジャーナリスト生活10年。されに転じて、昭和48年に僧侶(浄土真宗本願寺派)の資格を取得し翌年行信教校に学び、続いて伝道院。同年より本願寺布教使として教化活動に専念する。善巧寺では、児童劇団「雪ん子劇団」をはじめ永六輔氏を招いての「野休み落語会」など文化活動を積極的に行う。平成2年門徒会館・鐘楼建設、同年往生。

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