この八月、十二日間かけてシルクロード各地を回ってきた最後に、西安に二泊した。その折、善導大師ゆかりの香積寺(こうしゃくじ)を訪ねることができた。これは大師没後の神龍二年(七〇六年)、その遺徳を偲んで建てられたもので、三十三メートル十二層の塔だけは、創建当時のものであるという。さまざまな事情で訪れたのは五時を回っていたが、日はまだ高い。
ナーモアミダブ
ナーモアミダブ…。
奥の部屋から念仏の声が聞こえてきたのは思いがけない出来事であった。単調な旋律に乗って、素朴な、懐かしいような律動にそれはくり返している。そっと部屋をのぞくと、十数人の男女が、壁に向かって座ったまま唱和している。それは始めて聞く者でも唱和できるような、いやむしろそれを誘うかのようななつかしい旋律である。実際、同行の何人かが、小さな声でそれに合わせて念仏しているのは、不思議な光景であった。
今現在、彼の地で行われている念仏がどのような内容のものであるのか、おそらく私たちの教えとは大きな隔たりがあるにちがいない。それにしても、生きた念仏の声を聞くとは、予想もしない出来事であった。
念仏の 涼風吹くや 香積寺
帰り際、軒先で年老いた猫が昼寝しているのを、そっと近づいて私は写真に収めておいた。
(寺報93号)
・空華忌に思う/利井明弘(寺報69号)
・ご意見承りましょう/利井明弘(寺報70号)
・御文章について/梯實圓(寺報71号)
・永代祠堂経―前を訪へ―/高務哲量(寺報72号)
・報恩講をむかえて/利井明弘(寺報73号)
・「いのち」の風光/梯實圓(寺報74号)
・ある救援活動/利井明弘(寺報75号)
・無量光―共にかがやく―/天岸浄圓(寺報76号)
・おそだて/高田慈昭(寺報77号)
・恩に報いる/三嵜霊証(寺報78号)
・拝啓 寺報善巧様/大江一亨(寺報79号)
・雪山隆弘師と明教院僧鎔師/若林眞人(寺報80号)
・俊之さんの思い出/龍嶋祐信(寺報81号)
・往還回向由他力/那須野浄英(寺報82号)
・一人か二人か/梯實圓(寺報83号)
・混迷と苦悩の時代こそ/高務哲量(寺報84号)
・住持/高田慈昭(寺報85号)
・あなたの往生は間違いないか/利井明弘(寺報86号)
・かがやき/山本攝(寺報88号)
・無量寿のいのち/藤沢信照(寺報89号)
・仏法を主(あるじ)とする/梯實圓(寺報90号)
・生死出づべき道/高田慈昭(寺報91号)
・生死の帰依処/騰瑞夢(寺報92号)
・香積寺のことなど/山本攝(寺報93号)
・横超のおしえ/高田慈昭(寺報94号)
・永遠のとき/高務哲量(寺報95号)
・必ず煩悩の氷とけ/藤沢信照(寺報96号)
・報恩講/若林眞人(寺報97号)
・非常の言/高田慈昭(寺報98号)
・不自由ということ 不幸ということ/高務哲量(寺報99号)
・お念仏の世界観/高田慈昭(寺報101号)
・篤く三宝を敬え/天岸浄圓(寺報102号)
・抜けるような青空のもと/山本攝叡(寺報103号)
・善巧方便/騰瑞夢(寺報104号)
・洗面器の底のさくらの絵/森正隆(寺報105号)
・夢のお話/高田慈昭(寺報106号)
・育ちざかり/那須野浄英(寺報107号)
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・報恩講について/梯實圓(寺報109号)
・お釈迦さまへのプレゼント/霊山勝海(寺報111号)
・前坊守様を偲ぶ/霧野雅麿(112号)
・いずれの行もおよびがたし/藤沢信照(113号)
・生死いずべき道/服部法樹(寺報114号)
・あたたかなひかり/利井唯明(寺報115号)
・季節の中で/山本攝叡(寺報117号)