子供のころ、もっとも好きな季節は夏であった。贅沢に遊ぶということに縁はなかったが、無限とも思える自由があった。母の故郷で暮らした夏の輝き。糊の効いた真っ白なシーツ、そこで迎える家での眠りも、また絶品であった。
いま自分の好きな季節を言うのは難しいが、夏の終わりに寂しさを感じるのは、昔と変わらない。もう一度海辺の輝きと戯れてみたい、そしてあと何回この夏を迎えることが出来るだろう、いつかそんなことを考える年齢になっている。
お釈迦様の入滅、涅槃をどう考えるかは、仏教徒にとって大きな課題の一つであった。それに対する大乗仏教からの答え、その集大成が「涅槃経」の成立であった。そこでは如来性の常住、仏性の常住が語られる。やがてそれは、「一切衆生悉有仏性」という普遍的な世界観にまで展開されていく。
法然聖人は念仏することについて、
念仏の声を聞き、その一声一声に従って、決定往生と味わいなさい
と言い切っていかれた。念仏する時はいつも、往生が定まる時だと言うのである。それはここにいる私が、永遠の真実に出遇う時なのでもあった。昔味わった夏もよかったけど、こんな世界を学ばせてもらうようになった今もまた、幸せであると思う。
この寺報の出るころ、富山の秋は一段と深まっていることだろう。
(寺報117号)
・空華忌に思う/利井明弘(寺報69号)
・ご意見承りましょう/利井明弘(寺報70号)
・御文章について/梯實圓(寺報71号)
・永代祠堂経―前を訪へ―/高務哲量(寺報72号)
・報恩講をむかえて/利井明弘(寺報73号)
・「いのち」の風光/梯實圓(寺報74号)
・ある救援活動/利井明弘(寺報75号)
・無量光―共にかがやく―/天岸浄圓(寺報76号)
・おそだて/高田慈昭(寺報77号)
・恩に報いる/三嵜霊証(寺報78号)
・拝啓 寺報善巧様/大江一亨(寺報79号)
・雪山隆弘師と明教院僧鎔師/若林眞人(寺報80号)
・俊之さんの思い出/龍嶋祐信(寺報81号)
・往還回向由他力/那須野浄英(寺報82号)
・一人か二人か/梯實圓(寺報83号)
・混迷と苦悩の時代こそ/高務哲量(寺報84号)
・住持/高田慈昭(寺報85号)
・あなたの往生は間違いないか/利井明弘(寺報86号)
・かがやき/山本攝(寺報88号)
・無量寿のいのち/藤沢信照(寺報89号)
・仏法を主(あるじ)とする/梯實圓(寺報90号)
・生死出づべき道/高田慈昭(寺報91号)
・生死の帰依処/騰瑞夢(寺報92号)
・香積寺のことなど/山本攝(寺報93号)
・横超のおしえ/高田慈昭(寺報94号)
・永遠のとき/高務哲量(寺報95号)
・必ず煩悩の氷とけ/藤沢信照(寺報96号)
・報恩講/若林眞人(寺報97号)
・非常の言/高田慈昭(寺報98号)
・不自由ということ 不幸ということ/高務哲量(寺報99号)
・お念仏の世界観/高田慈昭(寺報101号)
・篤く三宝を敬え/天岸浄圓(寺報102号)
・抜けるような青空のもと/山本攝叡(寺報103号)
・善巧方便/騰瑞夢(寺報104号)
・洗面器の底のさくらの絵/森正隆(寺報105号)
・夢のお話/高田慈昭(寺報106号)
・育ちざかり/那須野浄英(寺報107号)
・こわいはなし/宗崎秀一(寺報108号)
・報恩講について/梯實圓(寺報109号)
・お釈迦さまへのプレゼント/霊山勝海(寺報111号)
・前坊守様を偲ぶ/霧野雅麿(112号)
・いずれの行もおよびがたし/藤沢信照(113号)
・生死いずべき道/服部法樹(寺報114号)
・あたたかなひかり/利井唯明(寺報115号)
・季節の中で/山本攝叡(寺報117号)