いじめによる少年少女の自殺や殺人事件など、悲しい出来事が起きるたびに、「命の重さ」を真剣に考えようと盛んに叫ばれます。そんな時、「たった一つの命だから」とか「一度きりの人生だから」とよく言われるのですが、私はそれだけでは、計り知れない「命の重さ」を知ることはできないのではないかと思うのです。というのも、私の命は、私を取り巻く過去・現在・未来の無数の命に支えられてこそ存在し得る、ということを仏教では教えているからです。
親鸞聖人は、その過去・現在・未来の無量の命に満ち満ちて、今ここに生きる私を支えてくださるもの、それが阿弥陀さまの「無量寿(むりょうじゅ)のいのち」なのだとお示しです。「正像末和讃」に、
超世無上に摂取し
選択五劫思惟して
光明・寿命の誓願を
大悲の本としたまへり
とあるように、阿弥陀さまの大悲の根本は、「光明無量、寿命無量の仏になろう」との願いにありました。その願いのとおり、過去・現在・未来を貫いて、数限りない命に宿り、迷いの根本である我執の殻を破ろうと、「南無阿弥陀仏」の声となってはたらき続けてくださる仏さま。その仏さまの声が、ようやく今、私の心の耳に届いて、私の我執の殻が破られるのです。東井義雄先生は、そのことを
死にながら、死なないで生き続けるいのち
自らも生き、他を生かし続けるいのち
すなわち「無量寿のいのち」をもらうということだとおっしゃいます。こうして「無量寿のいのち」をたまわり、おかげさまで、今ここに、かけがえのない、ただ一度きりの命を生きることができますという感謝の心にこそ、計り知れない「命の重さ」を実感できるのだと思います。
(寺報89号)
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