必ず煩悩の氷とけ/藤澤信照

最近、大平光代さんの「だからあなたも生き抜いて」という本を読みました。
著者は中学二年の時に、いじめを苦にして自殺を図り、その後、非行に走って、十六歳の時には極道の妻となり、背中に刺青を入れてまで、その世界で生きていこうとします。しかし、結局そこでも自分の生きる場所が見つからず、離婚してスナックで勤めることになります。

どん底まで落ちた彼女の人生に光が差すときがやって来ました。それは後に養父となる大平浩三郎さんとの出会いでした。それからの彼女の努力は並大抵のものではありません。なにしろ、中卒の身ながら司法試験に一発合格という快挙をやってのけるのですから。しかし、その努力は、どんな時でも優しく包んでくれたお祖母ちゃん、それから大平さんはじめ、たくさんの人たちの温かい心に支えられてのものだったのです。

無碍光の利益より
威徳広大の信をえて
かならず煩悩のこほりとけ
すなはち菩提のみづとなる

と親鸞聖人は『高僧和讃』に示されています。温かい心が通わなければ、人の心は凍ってしまいます。しかし、凍った心が溶けさえすれば、素晴らしい悟りの水となることを見抜かれた阿弥陀さまは、私たちをお慈悲の心で温かく包んでくださるのです。

人は皆、お慈悲の温もりに触れたとき、どんな状況の中でも、喜びと感謝の心を持ちながら、力強く生き抜いていくことができるということを、大平さんの本を読みながら、深く心にかみしめさせてもらいました。

(寺報96号)

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